「感動」は料理だけでは生まれない
「いいお店だったね。」
お客様にそう言ってもらえる店を作るには、何が必要なのでしょうか?
私が料理の道に入った頃、親方や先輩からは「とにかく美味しい料理を作れ」「味で感動させろ」と教え込まれました。
確かに、絶品の料理を提供すれば「美味しい!」と喜んでもらえます。しかし、それだけで「また来たい」と思ってもらえるでしょうか?
料理の美味しさは、店の価値を決める重要な要素の一つです。しかし、お客様が本当に求めているのは「料理の味」だけではありません。
✔ 料理の味——前提となるのはおいしさ
✔ 接客の質——心地よいサービスの提供
✔ 店の空間——雰囲気や演出などの居心地
これらがすべて揃って、初めて「感動するお店」になるのです。
本記事では、お客様が「また来たい」と思う店作りのポイントを具体的に解説していきます。
飲食店の感動を生む三つの要素
① 料理のクオリティ|「また食べたい」と思わせる味
料理の美味しさは、店の根幹です。どれだけ素晴らしい接客や空間があっても、料理そのものに魅力がなければ、お客様の記憶に残ることはありません。
そのため、食材の鮮度、火入れの加減、味付けのバランス——すべてに妥協しないことが大前提です。
しかし、感動を生む料理とは、ただ「凝った料理」や「高級食材を使った料理」ではありません。お客様が求めるのは、「気取った料理」ではなく、「心に残る料理」だからです。
✔ ホッとする味——懐かしさや温もりを感じる料理
✔ 季節を感じる一品——旬の食材を活かし、五感で楽しめる料理
✔ ちょっとした驚きがある盛り付け——視覚的な工夫や遊び心のある料理
例えば、冬なら昆布とカツオの出汁がしっかり染みた熱々のおでん。春なら、桜の香りがほんのり漂う茶碗蒸し。こうした料理は、単なる「美味しさ」を超え、記憶に残る一皿になります。
また、お客様が「次に何が出てくるのか」と期待を持てるように、コース料理の流れも重要です。
- 最初の一品で驚きを与える——見た目はシンプルながら、口に入れた瞬間に広がる意外な風味の一品
- メインで満足させる——ボリュームや味の満足感をしっかり提供
- 最後のデザートで心を和ませる——甘さ控えめで、食後にちょうど良い軽やかさ
このように、一皿一皿に「ストーリー」を持たせ、味覚だけでなく、心に響く体験を提供することが、「また食べたい」と思わせる鍵になります。
② 最高の接客|「また会いたい」と思わせる人間力
どんなに美味しい料理を作っても、接客が雑では台無しになります。
お客様は「料理」を味わうだけでなく、「素敵なサービスをもう一度体験したい」「覚えていてくれるのが嬉しい」と、信頼できるシェフや魅力的な女将たちに会いに来ます。
私が修業していた店の親方も、よくこう言っていました。
「料理は板前が作るもの、店の雰囲気はホールが作るもの、お客様の気持ちは全員で作るもの」
つまり、お客様の満足度を決めるのは、店全体のチームワークなのです。
✔ 笑顔で迎える——お客様が入店した瞬間に「歓迎されている」と感じられるか
✔ 目配り・気配り・手配り——お客様を常に意識し、気持ちを汲み取り、声をかけられる前に動く
✔ お客様に合わせた接し方をする——初めての方と常連では、コミュニケーションの仕方を変える
例えば、来店したお客様が、「前回の料理が美味しくて、また来ました」と言ってくださいました。その方が以前頼んだメニューを覚えていたので、
「今日は、前回の○○とは違うアレンジでお作りしましょうか?」
と提案したところ、大変喜ばれました。
「自分のことを覚えてくれている」と感じてもらえることは、料理の味以上に心に響くものです。
特別なもてなしをしなくても、ほんの一言や気遣いが「また会いたい」と思わせる接客につながるのです。
③ 空間と時間の演出|「また来たい」と思わせる居心地
料理の味や接客が素晴らしくても、「空間」と「時間」の演出が不十分だと、お客様の満足度は下がります。
逆に言えば、料理・接客・空間のすべてが調和したとき、本当の「感動」が生まれるのです。
✔ 料理の提供タイミングが絶妙——待たせすぎず、急かしすぎない
✔ 店内の温度や照明が心地よい——料理がより美味しく、心落ち着く環境作り
✔ BGMや器の音まで計算されている——五感で楽しむ食の空間
例えば、私の店では、料理を出すスピードをお客様に合わせて調整しています。
- お酒をゆっくり楽しむお客様 → コースの流れを少し緩やかにし、会話を邪魔しない
- 仕事帰りでサクッと食べたいお客様 → 料理をテンポよく提供し、スムーズな食事の流れを作る
また、カウンター席では、板前の動きや会話も「演出」の一部になります。
例えば、お客様が料理を口に運ぶ瞬間を見て、
「それ、今日は特にいい食材ですよ」
と一言添える。すると、お客様は料理の味にさらに意識を向け、記憶に残りやすくなります。
まとめ|感動を与える店は「総合力」で決まる
✔ 「また食べたい」と思わせる料理——味だけでなく、記憶に残る料理
✔ 「また会いたい」と思わせる接客——一人ひとりに合わせた気遣い
✔ 「また来たい」と思わせる居心地——空間と時間の演出で最高の体験を提供
これらが揃って、初めて「感動」が生まれます。
だから、私は今日も厨房に立ちます。
ただ料理を作るのではなく、お客様に「また来たい」と思ってもらえるように——。