新人 けんたパプリカ先輩、カツオってどう卸せばいいんですか?魚体もデカいし、サバとかアジみたいにうまく包丁が入らないんです……



お、いいところに気づいたな。カツオは青魚の中でも体高があって、筋肉が厚い。脂の乗り方も季節で変わるし、硬いウロコのせいで包丁の入れ方にもポイントがあるんだ!



普通に三枚に卸せるんですか?



基本的には鯛みたいに三枚卸しだよ。水洗いの手順が少しだけ違うのと、身割れしやすいことは覚えておくといい。
板前の仕事において、「魚をきれいに卸す」ことは技術の基礎であり、料理の仕上がりを左右する大事な工程です。
本記事では、プロの現場で実践されているカツオの卸し方を、手順・包丁の扱い・身の見極めまで、細部にわたって解説します。
初ガツオも戻りガツオも、自信をもって卸せるようになるための「プロ仕様の手ほどき」です。
カツオとは?【鰹】


カツオ(鰹)は、スズキ目・サバ科に属する回遊魚で、日本近海では春と秋に多く水揚げされます。
カツオは体高があり、筋肉質で厚みのある魚体をしています。背側は暗青色、腹側は銀白色という典型的な海洋回遊魚の色彩構造を持っており、泳ぎ続ける魚ならではの筋肉と骨格の組み合わせです。
暖流に乗って北上する「初鰹(はつがつお)」と、南下して脂を蓄えた「戻り鰹(もどりがつお)」。
この二つの季節魚としての顔を持つのが、カツオの大きな特徴です。
- 初鰹:4〜6月頃。身が締まり、あっさりとした赤身が特徴。刺身やたたきに向く。
- 戻り鰹:9〜11月頃。脂が乗り、濃厚な味わい。炙りや焼き物、漬けなどに好適。
語源は諸説ありますが、古くは「堅魚(かたうお)」が転じたとされます。
カツオは干しても硬く、保存性が高いことから「堅い魚」=「鰹」となったという説が有力です。
利用方法は非常に幅広く、
- 刺身、たたきなどの生食
- 塩焼き、竜田揚げなどの加熱調理
- カツオ節の出汁用
- ツナ缶などの加工品
など、和食の基本を支える魚でもあります。
栄養面では、高たんぱく・低脂質で、ビタミンB群やDHA・EPAを豊富に含みます。
とくに戻り鰹は脂質が多く、旨味成分であるイノシン酸も豊富なため、火を通しても深いコクを保てるのが魅力です。
\水揚げ日本一 気仙沼産 カツオ/
カツオを卸す際の注意点
この魚を卸す際、主に次のような注意が必要です。
- 硬いウロコがある:頭側の皮にはバラ引きできない硬いウロコがあるため、スキ引く必要があります。
- 身割れしやすい:カツオの身は自重や包丁の刃圧で裂けてしまうことがあるため、包丁の入れ方、身を支える手の動き、魚体を必要以上に動かさないことが重要です。
- 血合いの処理:カツオは血合い(身の内側中骨沿い付近)に赤黒い部分が多く、刺身用途ではこの血合いが生臭さの原因となるため、丁寧に取り除くのがプロの技です。
- 骨・ヒレ構造の理解:背ビレ・腹ビレ・尾・中骨・腹骨など、魚体の骨格構造を把握しておくことで包丁を骨に沿わせて滑らかに身を引くことができ、ロスを最小限に抑えられます。
- 鮮度・温度管理:足が早く痛みやすい魚です。低温での保管を徹底し、保鮮紙などでしっかりと包む。特に発泡スチロールで納品されたまま常温で放置することはもってのほかです。
これらの特徴を頭に入れたうえで、卸し手順へと進んでいきましょう。
カツオの卸し方【板前の手順】


ここからは、実際の卸し手順を段階ごとに解説します。プロの現場での使い勝手を意識し、効率・見映え・味の3点に配慮した流れです。
水洗い(下処理)
圧倒的に大事な第一ステップです。手抜きやいい加減な水洗いは必ず仕上がりに影響します。


胸ビレ付近には硬いウロコがありますが、鯛のようにバラ引くことはできません。


ヒラメやカレイ、ブリのようにスキ引くことで硬いウロコを外していきます。


おいらは頭を右に向け、尾を持ちながらスキ引くことに慣れています。頭は左向きでも構わないから、やりやすい方でやりましょう。


一通りスキ引けたら、ひっくり返して反対側もスキ引きます。


できる限り背ビレのキワまでスキ引きます。


お腹の腹ビレ付近にも硬いウロコがあるため、腹ビレごとスキ引きます。


スキ引きができたら頭を左に向け、スキ引いたウロコの下から斜めに頭を落とします。
太い中骨を断ち切るので、ケガには十分注意して下さい。関節に包丁を入れるとスッと切ることができます。


左手で魚体を起こしているので、斜めに包丁が入り、中骨が断ち切れているのがわかります。


ひっくり返し、同様の角度で包丁を入れていきます。


骨は断ち切れ、内蔵(食道や腸管)で繋がっている状態です。
切り離しでも問題ありませんが、この後の手順で内蔵も簡単に外せます。


お腹側の穴(肛門)から逆さ包丁を入れて、腹を頭まで切り裂きます。


裂けた腹から内蔵が見えます。
カツオにお辞儀をさせるように、手前側にも頭を折ると…


内蔵も一緒にキレイに外れます。


内蔵を除けた腹の中には、浮袋(白い膜)があり血合いが掃除できません。


浮袋は包丁で切り込みを入れて破きます。


流水でしっかりと洗い、キレイにしましょう。


しっかりとタオルで水気を拭き取り、「水洗い」といわれる下処理は終わりです。
背ビレを外す
「水洗い」以降は、清潔を意識してキレイな仕事を心掛けましょう。


背ビレを外すのもカツオならではの特別なやり方。
背ビレのキワまでしっかりとウロコが除けていれば、背ビレを外さなくても卸せます。


背ビレの両側から、逆さ包丁で切り込みを入れると簡単に外せます


柔らかい身と硬い背ビレのスキマを狙います。


反対側に逆さ包丁を入れる時は、尾をしっかり持ちカツオを立てます。


両側に逆さ包丁が入ったら、尾寄りの背ビレから包丁を入れて背ビレを丸ごと外します。


持ち上げても、まな板の上でもやりやすい方で背ビレを外します。


簡単に外れました。


三枚おろし
ここからは、王道のやり方でカツオを三枚に卸します。


- 裏身の腹
- 裏身の背
- 表身の背
- 表身の腹
この順番に包丁していきます。
ちなみに、表身とは魚を「頭左、腹手前」に置いた時は上にくる身、裏身は下にくる身です。
カレイだけは、反対向きで「左ヒラメ、右カレイ」となります。


一刀目は皮を切るだけ。


二刀目から身を切り、なるべく少ない回数で中骨まで到達するように心掛けましょう。


一刀目は皮を切るだけ。
外した背ビレ部分は皮もないのでそのままです。


骨に沿って切り、中骨まで到達するように。骨に身を残らさないようにします。


腹側から中骨に、背側から中骨に到達すると、残るはあばら骨のみです。あばら骨を断ち切り、片身が卸せます


身割れしやすい魚は(サーモン、サワラなども)、ここでひっくり返さずに、そのまま表身を卸していきます。


背ビレがないので、見やすく、卸しやすいです。


腹側から中骨まで包丁が入れば、あとはあばら骨のみ。


中骨についた「中落ち」は、スプーンですくい賄いでいただきましょう。


表身。


裏身。
ここで三枚卸しが完了です。
腹骨をかく・サク取り
さらに腹骨を除き、サク取りして骨のない状態へと仕上げていきます。


腹骨(あばら骨)と腹の膜を切り取ります。
腹骨は柳葉包丁ですくいとるように意識すると、失敗を避けられます。


カツオの骨は、大きく抜きにくく、身割れもしやすいのでサク取りして切り取ります。
腹節と背節の境目の骨を避け、大胆に切ります。


背節に残る骨を避けるように、まっすぐに切り分けます。


サク取りし使いやすい状態です。
- 腹節×2
- 背節×2
- 中骨×1
この5つで五枚卸しなりました。


刺身にするなら皮を引きます。
叩きならば、皮目を焼きます。
血合いも鮮度が良ければ臭みなく食べられますが、お客様の好みに合わせましょう。迷う時は血合いを除くのが正解です。
まとめ



パプリカ先輩!
「カツオの卸し方」勉強になりました!
ありがとうございます。



そうか。良かったよ。
カツオの卸し方は多くの魚と違う部分があるんだよ。
コツは抑えられたかな?



はい!
①水洗いでスキ引きする
②逆さ包丁で背ビレを外す
③身割れしやすい
この3つを意識して取り組んでいきます。



うんうん。
きちんと意識してやれば、あっという間に上達するさ!
本記事では、プロの板場で必要とされる カツオの卸し方 について、実際の卸し手順を写真付きで解説しました。
「魚をきれいに卸せる」ことは見た目だけでなく、味・鮮度・効率・そしてお客様の満足を左右する重要な要素です。
毎日の仕込みの中で、今回ご紹介したポイントを意識し、体に技術として染み込ませていけば、必ず仕上がりに差が出ます。
プロとして、安心してカツオを扱える技を手に入れましょう。


パプリカ先輩
板前一筋23年
東京都ふぐ免許保有
料亭、ミシュラン店、会員制クラブ勤務








