ほうれん草は、栄養価が高く、会席料理でもさまざまな料理に使用する野菜です。そこで、茹でる(板前は「あおる」と言う)際のポイントを紹介します。
理想のほうれん草に仕上げるために、重要なのは「たっぷりのお湯、塩、氷水」です。
ほうれん草の魅力を最大限に引き出す、「美味しいほうれん草の茹で方」をご紹介します。
ほうれん草を上手に茹でるためのポイント
ほうれん草などの青菜、つまり、小松菜や春菊、水菜も茹で方は同様です。
基本的には煮方の仕事ですが、店によっては他のポジションでも行う場合もあるでしょう。また、安価で賄いでの使用頻度も高いため、理論とともに、早めに身に付けておきたい技術です。
【意識すること】
・高温、短時間加熱
・急速冷却
【事前に用意するもの】
・たっぷりのお湯
・塩(湯量の1.5%~2%)
・氷水
【手順】
①洗う
②根元だけ茹でる
③全体を茹でる
④氷水で冷やす
以下、詳しく解説します。
料理は仕上がりを意識する
理想の仕上がりをイメージして、理論的に調理することで、何度でも同じクオリティーを維持できます。
【青菜類を茹でる時のポイント】
・高温、短時間で加熱する
・あく抜きする
・すぐに冷ます
【ポイントを満たすための準備】
・たっぷりのお湯
・塩(湯量の1.5%~2%)
・氷水
【失敗する要因】
・長時間加熱
・酸化
高温、短時間で茹でるにはたっぷりのお湯
お湯に素材を投入すると湯温が下がり、温度が下がると加熱時間が長くなります。
加熱時間が長いほど、緑色は褐色化するため、たっぷりのお湯でできる限り温度低下をさせないようにしましょう。
また、茹でることであくは溶け出し、あく抜きされます。電子レンジや蒸しての加熱ではあく抜きが不十分です。
塩は万能な調味料
青菜を茹でる際は塩茹でが基本であり、塩は料理に欠かすことのできない重要な調味料です。
様々な効果、作用のある塩。ほうれん草を茹でる際には以下の効果を与えることができます。
・沸点の上昇(極わずかです)
・緑色の安定化
・あく抜き促進
・茹で湯の酸化防止
氷水で鮮やかな緑を色止めする
茹で上がりには氷水にいれ、急速に冷まします。
可能であれば、冷却後、さらに5分ほど流水にさらしておくと、しっかりあく抜きされます。
ほうれん草などの青菜を茹でる手順
ほうれん草の茹で方の手順は、以下の通りです。
①洗う
②根元だけ茹でる
③全体を茹でる
④氷水で冷やす
①洗う
ほうれん草をよく洗うのは、土や砂を落とすためです。特に根元には、土が付きやすいので、注意しましょう。(根元を十字に包丁目を入れると良い)大きなボウルに水を溜めて、ほうれん草をジャブジャブ洗うのがおすすめです。
②茎だけ10秒茹でる
根元から立てるようにお湯に入れるのは、葉よりも硬い茎を先に加熱するためです。
③全体を30秒茹でる
箸やトングでほうれん草全体をお湯に沈め、上下を返しながら30秒茹で、茎と葉の硬さを均一にします。
ほうれん草の良し悪しや、茎の太さによって、茹で時間は調整しましょう。
④氷水で冷やす
事前に用意した氷水に素早く移し急速に冷やし、ほうれん草の色や食感を保つことができます。
⑤完成
美味しいほうれん草のできあがり!
銅鍋と重曹と木灰汁で追及する
ほうれん草をより鮮やかな緑色にする方法も紹介します。
・銅製の鍋を使う
銅とほうれん草の緑色は相性が良く、色素の安定性が増します。
・重曹を使う
お湯に重曹を混ぜるとアルカリ性になるため、ほうれん草はより鮮やかな緑色になります。
しかし、素材を軟化させ歯ざわりが悪くなるので、展示会などの見せる場面や、すりつぶす調理の際にのみ使用しましょう。
・木灰汁の上澄みを使う
木灰汁(もくあく)を水に混ぜ、沈殿後、その上澄みを用いることでPHの高いアルカリ性で茹でることができます。木灰汁は組織を軟化させずに色よくあく抜きができます。
ほうれん草を正しく茹でる理論
少し難しいですが、科学的な理由を述べておきます。
緑色の色素「クロロフィル」
ほうれん草の緑色の色素は「クロロフィル(=葉緑素)」と言い、その変化は以下の通りです。
状態 | 色 | 色素 |
---|---|---|
初期 | 緑色 | クロロフィル |
アルカリ性 | 鮮緑色 | クロロフィリン |
銅と結合 | 鮮緑色 | 銅クロロフィル |
Mgの離脱 | 黄褐色 | フェオフィチン |
分解後 | 褐色 | フェオフォルバイド |
色が悪くなる原因
クロロフィルに含まれるMg(マグネシウム)が離脱することで黄褐色化します。
Mgを離脱させる要因は「熱、光、酸」です。
要因 | 対策 |
---|---|
熱 | 適切な温度管理 短時間加熱 急速冷却 |
光 (紫外線) | 光を遮断 |
酸 | 酸化防止 PHの調整 |
ほうれん草のあくの成分
ほうれん草に含まれるあくは「シュウ酸」といい、苦味や渋味の元です。
シュウ酸は加水加熱(主に茹でること)によって多くが水に溶け出し、あく抜きすることができます。
また、一年中出荷されており、購入時期によって色や柔らかさ、あくの出方が異なり、育成度合いや収穫からの鮮度によっても違いがあります。
【まとめ】ほうれん草を茹でる目的とは?
そもそも、野菜を茹でる目的は、生のままでは硬い、苦くてマズい、ゴワゴワして食べにくい……そんな野菜を茹でて『美味しくすること』です。
大切なのは、
・仕上がりのイメージを持つこと
・正しい知識を身に付けること
・しっかり段取りを行うこと
です。
僕は若い頃、ブロッコリーを丸ごとお湯で茹でて、大失敗をしました。中まで火が通る頃には花蕾(からい。ドーム上の頭頂部のこと)デロデロに溶け、色は黄褐色で、先輩に大いに怒られました。
今、思い返せばありえないと思いますが、知識がない。というのは、そういうものです。
ほうれん草を美味しく仕上げるためのポイントを押さえましたか?あおりものは板前の仕事の基本です。理論的に学ぶことは上達を加速させます。感覚だけに頼らずに、科学的な根拠を元に料理をしましょう。
「美味しい料理は、人を幸せにできる。」とても素敵な職業です。