ステキな器ですねー
何て言う器ですか?
……
お客様や後輩の、器に対する疑問に答えられなかった経験はありませんか?
料理屋はお腹を満たすだけの場所ではありません。有意義で心に残る時間を提供できるように、料理の味はもちろん、サービスや雰囲気にも気を配る必要があります。
そして、料理の魅力を引き出し、選び方や相性のセンスが問われる「器」も重要です。
しかし、和食器の種類や特徴について詳しく知っている板前は少ないと感じます。
この記事では、陶磁器の種類と特徴を【文様・形・釉薬・技法の4つ】の観点から、画像を交えてわかりやすく解説します。
陶磁器は日本の伝統と芸術の結晶であり、人を魅了する力があります。陶磁器の知識を身につけることで、お客様とのコミュニケーションが深まり、感動的な食体験を提供できるようになります。
【吉祥文様】縁起の良い絵柄
日本文化の特徴を表す和食器には、古来から「繁栄」や「長寿」を願って描かれた、縁起の良い柄が多くあります。
これらの柄を吉祥文様(きっしょうもんよう)と呼び、海外からも高い人気があります。
吉祥文様は器だけでなく、着物や装飾品などにも使われ、日本を代表するデザインとなっています。
吉祥文様を次の4パターンに分けて紹介します。
- 幾何学文様(きかがくもんよう)
- 動植物文様
- 風景文様
- その他文様
幾何学文様|無限に続く単純な図形
市松(いちまつ)
四角形を格子状に描いた文様。歌舞伎役者「佐野川市松」の袴の文様が由来。
青海波(せいがいは)
どこまでも続く穏やかな波を描いた文様。
七宝(しっぽう)
楕円形を組み合わせて描いた文様。
網目(あみめ)
漁の投網を描いた文様。
紗綾形(さやがた)
「卍」を斜めに重ねて描いた文様。
鱗(うろこ)
三角形の構成で魚の鱗を模した文様。
植動物文様|古来からの縁起物
日本古来の縁起の良い動物と植物は器にも数多く使われています。
唐草(からくさ)
縦横無尽に伸びる茎、葉が絡み合って曲線を描く文様。ちなみに「唐草」という植物はない。
桜(さくら)
日本の国花である桜を描いた文様。
菊(きく)
日本のパスポートや皇族の象徴である菊を描いた文様。
松(まつ)
松竹梅で最上位を表す、松を描いた文様。
牡丹(ぼたん)
「不老長寿」の意味を持つ牡丹を描いた文様。
葡萄(ぶどう)
「豊穣や子孫繁栄」を表す葡萄を描いた文様。
武蔵野(むさしの)
ススキが茂る武蔵野を表現した文様。東京西部の武蔵野台地から。
十草(とくさ)
同じ幅の線を描いた文様。植物の「とくさ」から(木賊、十草、砥草)。
麦藁手(むぎわらて)
細い線と太い線の組み合わせで、麦藁を表した文様。
六瓢(むびょう)
六つの瓢箪(ひょうたん)を描いた文様。「無病息災」の語呂合わせ。
千鳥(ちどり)
「千の福を取る→千取る→千鳥」が語源で、波との組み合わせは「荒波を乗り越える」という意味合いもある千鳥を描いた文様。
鶴(つる)
「鶴は千年、亀は万年」とは有名で、長寿祈願を込めた文様。
鳥獣戯画(ちょうじゅうぎが)
ウサギ・カエル・サルなどを擬人化した文様。
風景文様|四季を彩る情景
桜川(さくらがわ)
川面に落ちる桜花の情景を描いた文様。
竜田川(たつたがわ)
川の流れともみじの葉を描いた文様。紅葉の名所、奈良県「竜田川」から。
山水(さんすい)
風と光を意味し、自然の景観を描いた文様。
雲錦(うんきん)
満開の桜は白雲、色づいた紅葉を錦織に見立てた文様。春と秋の季節を表す。
その他文様
瓔珞(ようらく)
古代インドの貴婦人の珠玉や金属玉を紐でつないだ装身具を見立てた文様。
文字(もじ)
吉祥を表現する文字を描いた文様。「楽」「魁」「寿」「吉」など。
唐子(からこ)
中国「唐」の子どもが遊んでいる様子を描いた文様。
祥瑞(しょんずい)
複数の緻密な幾何学文様と、花鳥や山水などを描いた文様。染付の最上位とされる。
独楽筋(こますじ)
円形の器に横線を描いた筋状文様。
【形状】他にはない多様な形状
丸型や四角はもちろん、和食器には奇抜で斬新な造形のデザインが豊富にあります。
その豊かな表現は陶磁器の奥深さとも言え、人々を魅了する所以となっています。
割山椒(わりざんしょう)
山椒の実が弾け、三つに割れた形。
高台(こうだい)
底面に支え台になっていて高さのある形。
扇面(せんめん)
扇を広げたような形。
紅葉(もみじ)
秋に紅葉(こうよう)する紅葉(もみじ)を描いた文様。
木甲/木瓜(もっこう/ぼけ)
一般的に四枚の花弁を表した形。
片口(かたくち)
口縁部の一部に注ぎ口がある形。
綴目(とじめ)
素地が重なり合って綴じてあるような形。
切立(きったて)
縁が垂直に立ち上がる形。
蛤(はまぐり)
蛤の貝殻を模した形。
笠(かさ)
雨、日を避ける楕円形の被り笠の形。
手付き(てつき)
持ち手の付いた形。飾りであるため持ち手で器を持たない。
木の葉(このは)
木の葉の形。
半月(はんげつ)
輪っかを半分に切った様な形。
菊(きく)
日本のパスポートや皇族の象徴である菊を模した文様。
琵琶(びわ)
七世紀から日本で演奏された楽器である、琵琶の形。
瓢箪(ひょうたん)
瓢箪を模した形。末広がりの縁起物。
【技法】匠による卓越の技
伝統工芸品でもある陶磁器は、長い歳月をかけ数々の名工が生まれ発展していきました。
器を手に取る者を感動させる、匠の技。
染付(そめつけ)
白地に藍色。日本磁器の原点。呉須(酸化コバルト)で下絵付けする技法。
赤絵(あかえ)
本焼き後に上絵付けして透明な釉薬で仕上げる技法。赤色をメインとして絵付けをする。
色絵(いろえ)
赤以外を多用する赤絵。発色金属を混ぜた絵の具を用いる。赤・黄(酸化鉄)緑(酸化銅)紫(酸化マンガン)青(酸化コバルト)。
布目(ぬのめ)
織物の織り目を押しつける装飾技法。元々は装飾法ではなく、型から生地をはがす陶器工程の手順の一つであった。
銀彩(ぎんさい)
上絵付けに銀粉や銀箔をあしらった技法。
金彩(きんさい)
上絵付けに金粉や金箔をあしらった豪華な技法。陶芸技法の中でも極めて難しいとされる。
刷毛目(はけめ)
無造作に筆跡で装飾する技法。意図的にむらを出し、濃淡のある刷毛目模様を強調する。
鉄絵(てつえ)
酸化鉄を含む絵の具で下絵付けする技法。鉄の含有量によって色味が変化する。黒~赤黒~黄褐色まで自在。
吹墨(ふきずみ)
霧吹きで呉須を吹き付ける技法。主に染付で利用される。
金蘭手(きんらんて)
別名「古伊万里様式」。赤絵に金箔で装飾する技法。盛り付け器より飾り器が主である。
透し彫り(すかしぼり)
器に穴を開ける装飾技法。クギやキリ、型を使って抜く。
三島手(みしまで)
灰色の生地に線彫りで模様を描く技法。点線模様が「静岡の三島大社の暦」と似ていることから。
伊羅保(いらぼ)
鉄分の多い粗い土で表面がイボイボさせる技法。元々は茶道の茶碗の一種。
【釉薬】焼成で生まれ変わる色と質感
陶磁器は、釉薬というガラス質の物質を塗って焼成することで、色や光沢、質感などが変わります。
釉薬は「ゆうやく」または「うわぐすり」と読みます。
釉薬にはどんな特徴や効果があるのでしょうか?まずは基本的なことから見ていきましょう。
釉薬の特徴と効果
釉薬は陶磁器の美しさや個性を引き出す重要な要素です。その組み合わせや配合割合、焼成温度によって無限に多彩な色味、風味を表現できます。
交趾(こうち)
京都、清水焼に多く、黄、紫、緑、青などの色釉薬を使用する。ベトナムのコーチシとの貿易が由来。
マット釉(まっとゆう)
黒釉にマグネサイトを添加した不透明な釉薬で、表面に光沢がないマットな質感。
掛け分け(かけわけ)
二種類以上の色釉を分けて掛け流す施釉手法。
青磁(せいじ)
青緑色や淡青色に発色した磁器。灰釉や素地の中に含まれるわずかな鉄分を還元焼成する。
黄瀬戸(きせと)
黄色〜茶色に発色する。岐阜県美濃市が有名。
御本手(ごほんて)
陶土の鉄分が窯変して赤い色彩や斑点状の模様が出る。
青白磁(せいはくじ)
白磁と青磁との中間の色調。白色の素地に青みを帯びた透明な釉を施す。
瑠璃釉(るりゆう)
透明釉に呉須を混ぜた瑠璃色の釉薬。還元焼成で青色~藍色を発色する。由来は宝石の瑠璃。
織部(おりべ)
深みのある緑色。長石と草木灰の灰釉をベースに酸化銅を混ぜる。茶人、古田織部が考案した。
天目(てんもく)
黒い鉄釉で黒~褐色~べっこう色を発色。鎌倉時代、禅僧が中国の天目山から持ち帰ったことに由来。
志野釉(しのゆう)
志野に使われる白色釉薬。鉄分の少ない土の陶磁器に使う。
粉引(こびき)
素地器を丸ごと白泥釉に浸ける(又は全面に流す手法)。粉を吹いた様な質感になることが由来。
貫入(かんにゅう)
釉薬と素地の膨張、収縮率の違いによってヒビが入る。「萩の七化け」が有名。使い込むことで色合いの変化を楽しめる。
【器の名前】理解すれば種類もわかる
陶磁器には名前があり、原則を理解して分解することで、どのような器なのかがわかります。
例:染付唐草木瓜型三寸皿
染付の技法で、唐草の描かれた、木瓜型の、約9cmの、お皿。
例:織部市松扇面向付
織部釉で、市松文様が描かれた、扇形の、深皿。
知識が身につけば、名称のみでどんな器かイメージできます。反対に、器の見た目で名前が予測できます。
【陶磁器の種類:まとめ】料理の創造性を高める
陶磁器は、日本の文化や美意識を反映した芸術作品です。
器の選択や盛り付けは、お客様との会話や心の交流を生み出すことがあります。
器に詳しいことは、他の板前には敵わない強みになり、器の品質や価値を見極める力にもなります。
和食器の種類や特徴を知ることで、料理人は器と料理の調和を考え、自分ならではの料理の創作も可能です。
和食器の豊かな歴史や多様性を学ぶことは、料理の創造性を高め、板前としてのスキルアップにつながります。