トイレ後だけど、めんどくさいから手洗いしなくていいっかー……
冬場の水は冷たいから、手洗いやめよーっと!
食中毒は飲食店にとって最も深刻なリスクの一つです。
食品衛生上の基本中の基本である、手洗い。調理場内でも正しくできない人がいます。
その軽はずみな行動が人の命を奪い、店の存続をも危うくする恐れがあります。
食中毒を未然に防ぐことは、プロの料理人にとって絶対不可欠で、正しい知識と高い意識が求められます。
この記事では、なぜ食中毒予防が重要かを掘り下げ、食中毒の実例や統計を元に「食中毒の恐ろしさ」を紹介します。
さらに、食中毒菌の特徴や予防方法から、HACCP(ハサップ)という世界標準の食品衛生対策についての基礎を解説します。
自分の作った料理を食べたお客様が喜んでくれるのは、板前として最も嬉しい瞬間です。しかし、その料理が菌に侵されていたら……
大根をかつら剥きできるより、魚をキレイに卸せるより、しっかりと手洗いする高い意識。年齢や経験年数ではなく、自分は「プロフェッショナルである」という自覚が、一流の板前へと導いてくれるでしょう。
なぜ食中毒を防ぐことが重要なのか?
食中毒は、飲食店にとって最も恐れることの一つと言えます。
なぜなら、
- 人の命奪う
- 店は存続できない
そのような危険性があるからです。
そもそも食中毒とは、食品中の有害物質によって引き起こされる感染症や中毒症の総称です。
食中毒には、さまざまな原因と症状がありますが、共通しているのは、「食品の安全性や品質に問題があった」ということです。
食べたお客様にも、提供した店側にも、何一つ良いことがありません。
命にかかわる深刻な事故
まず、食中毒で重症化すると最悪の場合、死に至ることがあります。
特に、高齢者や乳幼児、妊婦などの免疫力の低い人は、より高いリスクが伴います。
厚生労働省の統計(食中毒統計資料)では、1981年~2022年の42年間で、食中毒による死亡者のいない年はたったの2年間のみです。
(飲食店以外の施設や家庭での事故も含みます。例:釣ったフグを食べてしまった)
食中毒は人の命にかかわる深刻な問題なのです。
店の信用と責任を失わせる
次に、飲食店での食中毒の発生は、店の信用を失わせ、行政処分や訴訟などの法的な責任を問われることになります。
客足は遠のき、店の経営や評判に大きなダメージを与えることになるのです。失業や閉店、廃業などのリスクも潜んでいます。
プロ意識を持て!調理師の役割と使命
つまり、日々、おいしい料理の提供を目指すために行う業務は、「食中毒を未然に防ぐ」という大前提の基にされなければいけません。
「知らなかった」「忙しくて」では済まされるハズもなく、料理に携わる人間は正しい知識と確実な実践を通じて、後輩たちを教育しなくてはいけません。
日本料理の板前にとっても例外はなく、料理のプロとして、安全な食事の提供と食中毒のリスクを常に意識することが必要です。
【実例】過去に起きた食中毒事件
2021年~2023年の3年間で発生した「食中毒死亡事故」一覧です。
発生場所 | 原因食品 | 病因物質 | 原因施設 | 死者数 |
---|---|---|---|---|
北海道 | ドクツルタケ | 植物性自然毒 | 家庭 | 1 |
栃木県 | 不明 | その他のウイルス | 老人ホーム | 1 |
和歌山県 | 不明 | サルモネラ属菌 | 仕出屋 | 1 |
福岡県 | 鶏トマト煮 | 病原大腸菌 | 飲食店 | 1 |
北海道 | イヌサフラン | 植物性自然毒 | 不明 | 1 |
青森県 | ふぐ(従業員) | 動物性自然毒 | 飲食店 | 1 |
秋田県 | イヌサフラン | 植物性自然毒 | 家庭 | 1 |
京都府 | ローストビーフ | 腸管出血性大腸菌 | 販売店 | 1 |
宮崎県 | グロリオサ | 植物性自然毒 | 家庭 | 1 |
北海道 | イヌサフラン | 植物性自然毒 | 家庭 | 1 |
沖縄県 | 春雨の和え物 | サルモネラ属菌 | 老人ホーム | 1 |
発生場所 | 原因食品 | 病因物質 | 原因施設 | 死 者数 |
---|---|---|---|---|
北海道 | ドクツルタケ | 植物性自然毒 | 家庭 | 1 |
栃木県 | 不明 | その他ウイルス | 老人ホーム | 1 |
和歌山県 | 不明 | サルモネラ属菌 | 仕出屋 | 1 |
福岡県 | 鶏トマト煮 | 病原大腸菌 | 飲食店 | 1 |
北海道 | イヌサフラン | 植物性自然毒 | 不明 | 1 |
青森県 | ふぐ(従業員) | 動物性自然毒 | 飲食店 | 1 |
秋田県 | イヌサフラン | 植物性自然毒 | 家庭 | 1 |
京都府 | ローストビーフ | 腸管出血性大腸菌 | 販売店 | 1 |
宮崎県 | グロリオサ | 植物性自然毒 | 家庭 | 1 |
北海道 | イヌサフラン | 植物性自然毒 | 家庭 | 1 |
沖縄県 | 春雨の和え物 | サルモネラ属菌 | 老人ホーム | 1 |
2021年~2023年の3年間で発生した「各年、飲食店での患者数の多い事故」一覧です。
2023年 | 原因食品 | 病因物質 | 患者数 |
---|---|---|---|
大分県 | 不明 | ノロウイルス | 309 |
愛知県 | はんぺん,ごはん いんげん煮付け | ウエルシュ菌 | 267 |
神奈川県 | 給食弁当 | ウエルシュ菌 | 265 |
2023年 | 原因 食品 | 病因 物質 | 患者数 |
---|---|---|---|
大分県 | 不明 | ノロウイルス | 309 |
愛知県 | はんぺん ごはん いんげん | ウエルシュ菌 | 267 |
神奈川県 | 給食弁当 | ウエルシュ菌 | 265 |
2022年 | 原因食品 | 病因物質 | 患者数 |
---|---|---|---|
徳島県 | 不明 | ノロウイルス | 165 |
長野県 | 鶏と野菜炒め | ウエルシュ菌 | 150 |
青森県 | 不明 | ウエルシュ菌 | 130 |
2022年 | 原因 食品 | 病因 物質 | 患者数 |
---|---|---|---|
徳島県 | 不明 | ノロウイルス | 165 |
長野県 | 鶏肉と 野菜炒め | ウエルシュ菌 | 150 |
青森県 | 不明 | ウエルシュ菌 | 130 |
2021年 | 原因食品 | 病因物質 | 患者数 |
---|---|---|---|
埼玉県 | 海藻サラダ | その他の病原大腸菌 | 2958 |
大阪府 | ラーメン | その他の病原大腸菌 | 378 |
兵庫県 | 給食弁当 | その他の病原大腸菌 | 263 |
2021年 | 原因 食品 | 病因 物質 | 患者数 |
---|---|---|---|
埼玉県 | 海藻サラダ | 病原 大腸菌 | 2958 |
大阪府 | ラーメン | 病原 大腸菌 | 378 |
兵庫県 | 給食弁当 | 病原 大腸菌 | 263 |
【最新版】食中毒の現状と傾向
厚生労働省が公表する統計から、過去に起きた食中毒事故の概要は以下の通りです。
(直近の8年間、2015年〜2022年の統計)
食中毒の統計|施設別・食品別・原因菌別
【食中毒の全体数】
食中毒は、国内で年間1000件前後起こっています。
2020年以降の減少は、新型コロナウイルスの影響で外食の機会が少なくなったからと、推測できます。
年次 | 事件数 | 患者数 | 死者数 |
---|---|---|---|
2015 | 1,202 | 22,718 | 6 |
2016 | 1,139 | 20,252 | 14 |
2017 | 1,014 | 16,464 | 3 |
2018 | 1,330 | 17,282 | 3 |
2019 | 1,061 | 13,018 | 4 |
2020 | 887 | 14,613 | 3 |
2021 | 717 | 11,080 | 2 |
2022 | 962 | 6,856 | 5 |
【原因施設別(事件数)】
飲食店での事件数が過半数を占めています。
※新型コロナウイルスの影響で、2020年以降は減少しています。
年次 | 事件数 | 家庭 | 飲食店 | その他 |
---|---|---|---|---|
2015 | 1,202 | 117 | 742 | 343 |
2016 | 1,139 | 118 | 713 | 308 |
2017 | 1,014 | 100 | 598 | 316 |
2018 | 1,330 | 163 | 722 | 445 |
2019 | 1,061 | 151 | 580 | 330 |
2020 | 887 | 166 | 375 | 346 |
2021 | 717 | 106 | 283 | 328 |
2022 | 962 | 130 | 380 | 452 |
【原因施設別(患者数)】
一件の事件に対しての患者数が多くなることも飲食店の特徴です。
年次 | 患者数 | 家庭 | 飲食店 | その他 |
---|---|---|---|---|
2015 | 22,718 | 302 | 12,734 | 9,682 |
2016 | 20,252 | 234 | 11,135 | 8,883 |
2017 | 16,464 | 179 | 8,007 | 8,278 |
2018 | 17,282 | 224 | 8,580 | 8,478 |
2019 | 13,018 | 314 | 7,288 | 5,416 |
2020 | 14,613 | 244 | 6,955 | 7,414 |
2021 | 11,080 | 156 | 2,646 | 8,278 |
2022 | 6,856 | 183 | 3,106 | 3,567 |
【原因食品別(事件数)】
食品別でみると、魚介類での食中毒が高い割合です。
・「肉類」には加工品も含まれています。
・「野菜類」には加工品も含まれています。
・「その他」には卵、乳製品、菓子、複合、不明などが含まれています。
(※複合とは、コロッケなどの2種以上の材料でできたものを指します)
年次 | 事件数 | 魚介類 | 肉類 | 野菜類 | その他 |
---|---|---|---|---|---|
2015 | 1,202 | 209 | 64 | 48 | 881 |
2016 | 1,139 | 173 | 80 | 70 | 816 |
2017 | 1,014 | 196 | 61 | 27 | 730 |
2018 | 1,330 | 414 | 65 | 34 | 817 |
2019 | 1,061 | 273 | 58 | 46 | 684 |
2020 | 887 | 299 | 28 | 43 | 517 |
2021 | 717 | 223 | 31 | 29 | 434 |
2022 | 962 | 384 | 29 | 35 | 514 |
【原因食品別(患者数)】
多くの割合を占める「その他」の内、食品を断定できていない場合が大半です。
年次 | 患者数 | 魚介類 | 肉類 | 野菜類 | その他 |
---|---|---|---|---|---|
2015 | 22,718 | 1,632 | 574 | 190 | 20,322 |
2016 | 20,252 | 1,112 | 1,067 | 619 | 16,454 |
2017 | 16,464 | 469 | 638 | 295 | 14,062 |
2018 | 17,282 | 1,209 | 451 | 216 | 15,406 |
2019 | 13,018 | 829 | 826 | 259 | 11,104 |
2020 | 14,613 | 711 | 682 | 161 | 12,059 |
2021 | 11,080 | 335 | 158 | 212 | 10,375 |
2022 | 6,856 | 745 | 227 | 225 | 4,659 |
【原因物質別(事件数)】
近年では、アニサキスによる食中毒が増加傾向です。
ただし、事件数と患者数がほぼ同数であることから、家庭での発生も多いと推測できます。
年次 | 事件数 | サルモネラ | ぶどう | 大腸菌 | ウエルシュ | カンピロ | ノロウイルス | アニサキス |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2015 | 1202 | 24 | 33 | 23 | 21 | 318 | 481 | 127 |
2016 | 1139 | 31 | 36 | 20 | 31 | 339 | 354 | 124 |
2017 | 1014 | 35 | 22 | 28 | 27 | 320 | 214 | 230 |
2018 | 1330 | 18 | 26 | 40 | 32 | 319 | 256 | 468 |
2019 | 1061 | 21 | 23 | 27 | 22 | 286 | 212 | 328 |
2020 | 887 | 33 | 21 | 11 | 23 | 182 | 99 | 386 |
2021 | 717 | 8 | 18 | 14 | 30 | 154 | 72 | 344 |
2022 | 962 | 22 | 15 | 10 | 22 | 185 | 63 | 566 |
年次 | 事件数 | サルモネラ | ぶどう | 大腸菌 | ウエルシュ | カンピロ | ノロウイルス | アニサキス |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2015 | 1202 | 24 | 33 | 23 | 21 | 318 | 481 | 127 |
2016 | 1139 | 31 | 36 | 20 | 31 | 339 | 354 | 124 |
2017 | 1014 | 35 | 22 | 28 | 27 | 320 | 214 | 230 |
2018 | 1330 | 18 | 26 | 40 | 32 | 319 | 256 | 468 |
2019 | 1061 | 21 | 23 | 27 | 22 | 286 | 212 | 328 |
2020 | 887 | 33 | 21 | 11 | 23 | 182 | 99 | 386 |
2021 | 717 | 8 | 18 | 14 | 30 | 154 | 72 | 344 |
2022 | 962 | 22 | 15 | 10 | 22 | 185 | 63 | 566 |
【原因物質別(患者数)】
年次 | 患 者 数 | サル モネ ラ | ぶどう | 大 腸 菌 | ウエ ルシ ュ | カン ピロ | ノロ ウイルス | アニサキス |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2015 | 22,718 | 1,918 | 619 | 518 | 551 | 2,089 | 14,876 | 133 |
2016 | 20,252 | 704 | 698 | 821 | 1,411 | 3,272 | 11,397 | 126 |
2017 | 16,464 | 1,183 | 336 | 1,214 | 1,220 | 2,315 | 8,496 | 242 |
2018 | 17,282 | 640 | 405 | 860 | 2,319 | 1,995 | 8,475 | 478 |
2019 | 13,018 | 476 | 393 | 538 | 1,166 | 1,937 | 6,889 | 336 |
2020 | 14,613 | 861 | 260 | 6,314 | 1,288 | 901 | 3,660 | 396 |
2021 | 11,080 | 318 | 285 | 2,300 | 1,916 | 764 | 4,733 | 354 |
2022 | 6,856 | 698 | 231 | 278 | 1,467 | 822 | 2,175 | 578 |
年次 | 患者数 | サルモネラ | ぶどう | 大腸菌 | ウエルシュ | カンピロ | ノロウイルス | アニサキス |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2015 | 22,718 | 1,918 | 619 | 518 | 551 | 2,089 | 14,876 | 133 |
2016 | 20,252 | 704 | 698 | 821 | 1,411 | 3,272 | 11,397 | 126 |
2017 | 16,464 | 1,183 | 336 | 1,214 | 1,220 | 2,315 | 8,496 | 242 |
2018 | 17,282 | 640 | 405 | 860 | 2,319 | 1,995 | 8,475 | 478 |
2019 | 13,018 | 476 | 393 | 538 | 1,166 | 1,937 | 6,889 | 336 |
2020 | 14,613 | 861 | 260 | 6,314 | 1,288 | 901 | 3,660 | 396 |
2021 | 11,080 | 318 | 285 | 2,300 | 1,916 | 764 | 4,733 | 354 |
2022 | 6,856 | 698 | 231 | 278 | 1,467 | 822 | 2,175 | 578 |
【基本】食中毒の種類を知ろう~特徴や症状~
【食中毒の分類】
- 細菌性
- ウイルス性
- 自然毒
- 化学物質
- 寄生虫
【食中毒菌の増殖条件】
- 栄養:食品自体、器具の汚れ
- 温度:10~60℃で増殖、36℃前後が最も増殖
- 水分:食品中の水分で増殖
- 時間:細胞分裂によって倍々に増殖
【細菌の予防三原則】
- 付けない:「清潔・洗浄」
- 増やさない:「迅速・冷却」
- やっつける:「加熱・消毒」
(75度以上かつ、1分以上の加熱)
【ウイルスの予防四原則】
- 持ち込まない:「健康管理、医療機関の受診」
- 付けない:「手洗い徹底、相互汚染防止」
- 増やさない:「迅速・冷却」
- やっつける:「加熱・消毒」
(ノロウイルスは90度以上かつ、90秒以上加熱)
その他:使い捨て手袋の着用、乾燥も有効です。
サルモネラ菌
菌名 | サルモネラ属菌 |
---|---|
特徴 | 鶏や豚などの腸管や自然界に広く分布 血清型が2,500種類以上 乾燥に強い |
拡大時期 | 夏(6~10月) 温暖な環境が好適 高湿度、高気温の条件下で活発に増殖 |
発症時間 | 6〜72時間 |
症状 | 腹痛、嘔吐、下痢、発熱(38℃~40℃)など 小児や高齢者の場合は脱水症状により重篤な状態に 長期間排菌するため注意 |
原因食品 | 生肉、生卵、生乳、未加熱の鶏肉 うなぎ、スッポン ネズミやペット動物 |
予防対策 | 二次汚染防止 生を避け、十分な加熱調理 冷蔵保管 |
菌名 | サルモネラ属菌 |
---|---|
特徴 | 鶏や豚などの腸管 血清型が2,500種類以上 乾燥に強い |
拡大 時期 | 夏(6~10月) 温暖な環境が好適 高湿度、高気温で活発に増殖 |
発症 時間 | 6〜72時間 |
症状 | 腹痛、嘔吐、下痢、発熱など 重症は脱水症状 長期間排菌する |
原因 食品 | 生鶏肉、生卵、生乳 うなぎ、スッポン ネズミやペット動物 |
予防 対策 | 二次汚染防止 十分な加熱調理 冷蔵保管 |
黄色ブドウ球菌
菌名 | 黄色ブドウ球菌 |
---|---|
特徴 | 人や動物の皮膚や粘膜に常在 エンテロトキシンというの毒素を産生 100℃30分の加熱にも無毒化されない 低温に弱い |
拡大時期 | 高温多湿の夏場 |
発症時間 | 30分~6時間程度 食中毒の中で最も潜伏期間が短い |
症状 | 嘔吐、腹痛、下痢など 通常24時間以内に改善 脱水症状や血圧低下などの重症化もある |
原因食品 | 手で触れる加工食品 (おにぎり、サンドイッチ、弁当など) |
予防対策 | 手洗いや消毒、手袋の着用を徹底 冷蔵保管 十分な加熱調理 |
菌名 | 黄色ブドウ球菌 |
---|---|
特徴 | 人や動物の皮膚や粘膜に常在 エンテロトキシン毒素を産生 100℃30分の加熱に耐える 低温に弱い |
拡大 時期 | 高温多湿の夏場 |
発症 時間 | 30分~6時間程度 最も潜伏期間が短い |
症状 | 嘔吐、腹痛、下痢など 通常24時間以内に改善 脱水症状や血圧低下などの 重症化もある |
原因 食品 | 手で触れる加工食品 (おにぎり、弁当、 サンドイッチなど) |
予防 対策 | 手洗いや消毒、 手袋の着用を徹底 冷蔵保管 十分な加熱調理 |
大腸菌O-157
菌名 | 大腸菌O-157 |
---|---|
特徴 | 牛などの家畜の腸内に生息 ベロ毒素という強力な毒素を産生 |
拡大時期 | 夏季や暖かい気候下で増殖が促進 高温多湿の初夏から初秋 |
発症時間 | 3~8日程度 |
症状 | 頻回の水様便、激しい腹痛、血便など 重症化すると溶血性尿毒症症候群(HUS)や脳症などの合併症 |
原因食品 | 生肉や生卵、肉類加工品 未加熱の牛乳、野菜など |
予防対策 | 食材の十分な加熱 手洗いや調理器具の衛生管理 生食の避けることが重要 |
菌名 | 大腸菌O-157 |
---|---|
特徴 | 牛などの家畜の腸内に生息 ベロ毒素という強力な毒素を産生 |
拡大 時期 | 夏季や暖かい気候下で増殖 高温多湿の初夏から初秋 |
発症 時間 | 3~8日程度 |
症状 | 頻回の水様便、 激しい腹痛、血便など 溶血性尿毒症症候群や 脳症など(重症) |
原因 食品 | 生肉や生卵、肉類加工品 未加熱の牛乳、野菜など |
予防 対策 | 食材の十分な加熱 手洗いや調理器具の衛生管理 生食の避けることが重要 |
ウエルシュ菌
菌名 | ウエルシュ |
---|---|
特徴 | 食品中で発芽し、熱に強い芽胞を作る 酸素が少ない状態で増殖 |
拡大時期 | 春から秋 年間通じて発生する 5月に最も多く発生 |
発症時間 | 6~24時間 |
症状 | 腹痛、下痢、嘔吐、発熱など |
原因食品 | 煮込み料理が多い カレーやシチュー、スープ、麺つゆなど 大量調理・作り置きされた食品 |
予防対策 | 前日調理は避ける 速やかに冷却 小分けにして保存 |
菌名 | ウエルシュ |
---|---|
特徴 | 熱に強い芽胞を作る 酸素が少ない状態で増殖 |
拡大 時期 | 通年 5月に最多 |
発症 時間 | 6~24時間 |
症状 | 腹痛、下痢、嘔吐、発熱など |
原因 食品 | 煮込み料理 カレーやシチュー、 スープ、麺つゆなど 大量調理・作り置きの食品 |
予防 対策 | 前日調理は避ける 速やかに冷却 小分けにして保存 |
カンピロバクター
菌名 | カンピロバクター |
---|---|
特徴 | 細菌性最多 30℃以下で発育しない |
拡大時期 | 通年 |
発症時間 | 1~7日 |
症状 | 腹痛、激しい下痢、嘔吐、発熱など まれにギランバレー症候群 |
原因食品 | 生の鶏肉 (鶏刺し、鶏たたきなど) |
予防対策 | 生肉の管理徹底 器具消毒、手洗い 十分な加熱 |
菌名 | カンピロバクター |
---|---|
特徴 | 細菌性最多 30℃以下で発育しない |
拡大 時期 | 通年 |
発症 時間 | 1~7日 |
症状 | 腹痛、激しい下痢、 嘔吐、発熱など まれにギランバレー症候群 |
原因 食品 | 生の鶏肉 (鶏刺し、鶏たたきなど) |
予防 対策 | 生肉の管理徹底 器具消毒、手洗い 十分な加熱 |
ノロウイルス
菌名 | ノロウイルス |
---|---|
特徴 | 非常に強い感染力を持つ 人の腸内で増殖する |
拡大時期 | 11月から2月にかけての冬場がピーク |
発症時間 | 12~48時間で急激に発症 |
症状 | 嘔吐、下痢、発熱、悪寒、筋肉痛など 通常、1~2日で治癒する 乳幼児や高齢者などは脱水症状や重症化 |
原因食品 | 特に加熱不十分な二枚貝 感染者の二次汚染 |
予防対策 | 90℃以上90秒以上の加熱 感染者との接触回避 |
菌名 | ノロウイルス |
---|---|
特徴 | 非常に強い感染力 人の腸内で増殖 |
拡大 時期 | 冬場がピーク |
発症 時間 | 12~48時間で急激に発症 |
症状 | 嘔吐、下痢、発熱、 悪寒、筋肉痛など 通常、1~2日で治癒する 重症化は脱水症状 |
原因 食品 | 特に加熱不十分な二枚貝 感染者の二次汚染 |
予防 対策 | 90℃以上90秒以上の加熱 感染者との接触回避 |
アニサキス
菌名 | アニサキス |
---|---|
特徴 | 長さ2~3cm、白色の糸状の寄生虫 胃壁や腸壁に刺入して炎症を起こす |
拡大時期 | 季節を問わず発生 10月に最多となる傾向 |
発症時間 | 数時間後から数日後 |
症状 | 激しい腹痛、悪心、嘔吐 重症化するとアナフィラキシーショック |
原因食品 | 生食や生焼けの魚介類 サバ、アジ、サンマ、カツオ、イワシ、サケ、イカなど |
予防対策 | 新鮮な魚介類 十分な加熱調理 冷凍する(-20℃で24時間以上) |
菌名 | アニサキス |
---|---|
特徴 | 長さ2~3cmで 白色の糸状の寄生虫 胃壁や腸壁に炎症を起こす |
拡大 時期 | 季節を問わず発生 10月に最多となる傾向 |
発症 時間 | 数時間後から数日後 |
症状 | 激しい腹痛、悪心、嘔吐 重症化はアナフィラキシーショック |
原因 食品 | 生食や生焼けの魚介類 サバ、アジ、サンマ、カツオ、 イワシ、サケ、イカなど |
予防 対策 | 新鮮な魚介類 十分な加熱調理 冷凍する(-20℃で24時間以上) |
HACCPとは何か?|食中毒を防ぐための衛生管理システム
HACCP(ハサップ)とは、世界中で使われている食品の安全性を確保するためのルールです。
HACCPの目的は、消費者に安全な食べ物を届けること。
つまり、食品の生産から消費までの全工程において、危害要因を見つけて、適切に管理して、食中毒や異物混入を防止することです。
2021年6月1日から義務化
HACCPは原則として、すべての食品等事業者に義務化されました。
食に携わる上で避けて通れないのが『HACCP』です。
厚生労働省のホームページにHACCPについて、情報が公開されています。
より詳細な情報は「HACCP(厚生労働省)」をご覧ください。
ここでは、簡単に分かりやすく解説します。
HACCPの7つの原則と12の手順
まず、HACCPの導入の際は、以下の7つの原則に基づき、12の手順で実施します。
【原則1】危害要因分析の実施
工程ごとに、発生する可能性のある危害要因を探して、頻度や深刻度を分析する。
【原則2】CCPの決定
危害要因を排除・低減するために、特に重要な工程を決定する。
(加熱殺菌、金属探知など)
【原則3】管理基準の設定
CCPが害のない水準になるように、基準を設ける。
(温度、時間など)
【原則4】モニタリング方法の設定
基準が守られているかどうかを監視する方法を決める。
(計器、方法、頻度など)
【原則5】改善措置の設定
基準を満たしていない場合、どうするかを決めておく。
(破棄、再加熱など)
【原則6】検証方法の設定
適切に管理されているか、修正が必要かどうか
定期的に検証する。
(内外部監査、微生物検査など)
【原則7】記録と保存方法の設定
各工程ごとに記録を残し、保管しておく。
(原因究明、証拠)
【12の手順】
- HACCPチームの編成
- 製品説明書の作成
- 意図する用途及び対象となる消費者の確認
- 製造工程一覧図の作成
- 製造工程一覧図の現場確認
- 危害要因分析の実施
- 重要管理点(CCP)の決定
- 管理基準(CL)の設定
- モニタリング方法の設定
- 改善措置の設定
- 検証方法の設定
- 記録と保存方法の設定
手順1~5はHACCP導入の前準備、
手順6~12は原則1~7と重複し、導入の手順を示しています。
HACCPのメリット
次に、HACCPを実践することのメリットを挙げます。
- 食中毒の予防:食品の安全性を科学的に分析し、管理することで、食中毒の発生を最小限に抑えることができます。
- 顧客の信頼:HACCPの証明書やロゴを表示することで、顧客に食品の安全性をアピールすることができます。
- コストの削減:食品の廃棄や再処理を減らすことで、コストを削減することができます。
- 品質の向上:食品の品質を一定の水準に保つことで、顧客の満足度を向上させることができます。
- 法令の遵守:HACCPは、食品衛生法や食品安全基本法などの法令に準拠することができます。
小規模事業者|街の中の飲食店のHACCP
最後に、多くの板前が該当するであろう規模の小さな飲食店について解説します。
これまで述べてきたHACCPに関しての内容は、大規模な企業を想定しています。
例えば、食品製造工場やチェーンレストランのセントラルキッチン、学校・病院の給食などです。
【小規模事業の対象者】
①食品を製造や加工をして、併設あるいは隣接された店舗で販売する者。
(豆腐の製造販売、魚介類の販売 など)
②飲食店又は喫茶店の営業を行う者。
(居酒屋、カフェ など)
③容器包装された食品のみを貯蔵や運搬、販売する者。
④食品を分割して容器包装して小売販売する営業者
(八百屋、コーヒーの量り売り など)
⑤食品工場などで、食品等の取扱いに従事する者の数が50人未満である事業場
(事務職員等は含まない)
【実施内容】
- 手引書の解説を読み、危害要因を理解する。
- 衛生管理計画を作成する。
- 従業員に内容を周知する。
- 実施状況を記録する。
- 記録を保存する。
- 必要に応じて衛生管理計画を見直す。
《MEMO:手引書とは?》
HACCPの考え方を取り入れた衛生管理に取り組む際に参考となる資料で、食品等事業者団体が作成し厚生労働省が確認したものです。
【食中毒のまとめ】プロとしての自覚
この記事では、
- 食中毒のリスク
- 食中毒を防ぐことの重要性
- 食中毒菌の知識
- HACCP
などについて解説してきました。
まず、料理に携わる板前が肝に銘じておくことは、
「食中毒は命を失う危険と、店の信頼性を著しく低下させる可能性がある」ということです。
その上で、「食中毒を未然に防ぐための正しい知識を学ぶ」必要があります。
さらに、最も大切だともいえるのは、「知識を実践する」ことです。
手洗いをサボる度に、誰かが注意してくれるわけではありません。
他人に言われなくても、自ら行動、実践できる者がプロフェッショナルです。