どれほどに優れた包丁も
「研ぐ」ことでしか切れ味は生まれない
砥石って、たくさんの種類があるけど何がどう違うんすか?
バカモン!砥石は板前にとって、とても大切なものだ。研ぐ目的や自分のスタイルに合わせて使い分けるから、砥石の勉強もしなさい!
「研ぐ・磨く」とは、縄文時代の石器にも施され、あらゆる加工技術の中でも、最も長い歴史があります。刀剣を研ぐために必須であった戦国時代を経て、砥石は進化してきました。
板前にとっても、包丁の切れ味を維持するために欠かせない砥石です。
しかし、現在では砥石の種類はとても多く、目的や使い心地に合わせて、適切に選ぶことが重要です。
この記事では、「砥石の種類」について深掘りし、番手の違いから製法による分類を詳細に解説します。
砥石を学ぶことで、自分の目的に応じて使い分け、使い心地を基準に選ぶことができます。
愛着のある包丁たちは、きちんと砥石でメンテナンスしてこそ、その性能を最大限に発揮できます。
砥石の形状|料理人は角砥石を使うべき
まず、「砥石」は形状によって
- 角砥石
- シャープナー
- 研ぎ棒
に分けられます。
シャープナーと研ぎ棒は主に一時的、簡易的な研ぎに使われます。
プロの料理人である板前は、角砥石で包丁を研ぐのが基本です。
単に「砥石」と言えば角砥石を指し、研ぎ手の目的や好みによって様々な種類から選ぶことができます。
角砥石は大きく分けて、以下の2種類です。
- 人工的に固めた「人造砥石」
- 山から採掘した「天然砥石」
【人造砥石】目的に合わせて選べる豊富な種類
【人造砥石とは?】
- 人工的に固めて作った砥石
- 番手や製法によって豊富な種類
- 均一で高品質
- 天然と比較して安価
- 天然よりも切れ味が劣る
人工的に研磨材を固めるため、
均一でムラがなく、
安定的に高品質な砥石といえます。
また、希少性のある天然砥石よりも価格は安く、
性能が劣るとはいえ人造砥石でも、
「切れる刃をつける」という役割は十分に果たします。
各メーカーから多くの種類が販売されているため、
研ぎ手の目的によって砥石を使い分け、
好みに応じて選べるほどの種類があります。
砥石の番手|砥粒の大きさによる違い
「砥石の番手」とは「砥粒の目の粗さ(大きさ)」を示し、「#◯◯◯」のように数字で表します。
- 数字が小さいほど粒度は粗い
- 数字が大きいほど粒度は細かい
- 荒砥、中砥、仕上げ砥と分かれる
番手が小さいほど、削る力は強くなります。
番手が大きいほど、包丁の切れ味は高まります。
[荒砥石]刃こぼれ・型直し
#80~#400程度
研磨よりも研削というイメージで、欠けた刃や形の歪んだ包丁の修正を行う砥石です。
- 研削力が大きく、刃に荒い傷を付ける
- 刃こぼれを直す、形状を整える砥石
- 刃を減らし過ぎないように注意が必要
[中砥]刃を付ける
#1000~#2000程度
板前も日常的に使う砥石で、切れ味の落ちた包丁の切れ味を回復させます。
- 荒砥の傷をより細かい傷にしていく
- 日常的に使い、切れる刃を付ける砥石
[仕上げ砥]小刃引きや裏押し
#3000~#30000程度
本焼の刺身包丁の研ぎや小刃・糸刃を付ける場合、あるいは裏押しを研ぐ際に使います。
鏡面仕上げにも用いられます。
- 極細かい砥粒で傷を消していく
- より鋭い切れ味
- バリ取りや裏研ぎの仕上げ
- 鏡面に仕上げる砥石
砥石の製法|3つの構成と5つの性能要素
砥石の構成は3要素からなります。
- 砥粒:包丁を削る
- 結合剤:砥粒を結合し維持する
- 気孔:砥粒と結合剤の隙間で、研ぎカスの逃げ場を作る
砥石の性能は5因子からなります。
- 砥粒:砥粒の種類・品質
- 粒度:砥粒の大きさ(=番手)
- 結合度:砥石の硬さ、砥粒を保持している強さの程度
- 組織:砥石の容積に占める砥粒の割合
- 結合剤:砥粒を保持している材料の種類
【砥粒(とりゅう)】包丁よりも硬い物質
「砥粒」は包丁を削る研磨材の役割を担います。
包丁を削る刃物となり、包丁よりも硬い物質です。表面の砥粒が削られ、角がなくなると脱落し次の砥粒が現れます。
砥粒の種類は大きく分類して、
- アルミナ質砥粒
- 炭化ケイ素質砥粒
- ダイヤモンド砥粒
の3種類があります。
【アルミナ質砥粒】
砥石の寿命と研磨性能のバランスが良く、最も多く使われる砥粒。
高硬度で靭性(壊れやすさ)が良好で長持ちする。
【炭化ケイ素質砥粒】
アルミナよりも硬いが、もろく壊れやすい。
荒砥石に向く。
【ダイヤモンド砥粒】
最も硬い砥粒。
非常に高い研磨力と耐摩耗性。
(包丁はよく研げるが砥石は減らない)
【粒度(りゅうど)】砥粒の大きさ(=番手)
「粒度」は砥粒の大きさを示します。
JIS規格では8〜3000番の区分があります。
小さい数値は粗い砥粒を、
大きい数値は細かい砥粒を指します。
【結合度(けつごうど)】砥石の硬度
「結合度」は砥粒を維持する力の程度を指します。
結合剤が多い
=結合度が高い
=砥石は硬い
=砥粒は脱落しにくい
結合度が強すぎると、研磨力のなくなった砥粒が脱落せず、研げません。
結合剤が少ない
=結合度が低い
=砥石は軟らかい
=砥粒は脱落しやすい
結合度が弱すぎると、研磨力のある砥粒まで脱落させ、消耗が早まります。
研磨力のなくなった砥粒を、程よいタイミングで脱落させることが必要です。
【組織(そしき)】砥粒と気泡の割合
「組織」は砥石に占める砥粒の量と気孔の割合を指します。
砥粒の量が多く気孔が少ないと「密」
砥粒の量が少なく気孔が多いと「粗」
気孔は研ぎカスの逃げ場となり、目詰まりを防いでくれます。
【結合剤(けつごうざい)】砥粒をボンドで成形
「結合剤」はボンドの種類を指し、製法が異なります。
主な結合剤は以下の3種類。
- ビトリファイド
- レジノイド
- マグネシア
特徴 | ビトリファイド | レジノイド | マグネシア |
---|---|---|---|
見分け方 | 金属音 浸水で気泡あり | 鈍い音 浸水で気泡なし | 金属音 浸水で気泡なし |
結合材 | 粘土などの セラミック物質 | フェノールなどの 合成樹脂 | マグネシアセメント |
製法 | 高圧で成形し 高温で焼き固める | 低温で焼き固める | 常温乾燥させて固める |
浸水 | 必要 | 不要 | 不要 |
研磨力 | 非常に高い | 比較的弱い | 高い |
仕上がり | 粗目 | 細か目 | 天然砥石のように キメ細かい |
弾力性 | 低い | 高い | 中程度 |
経年劣化 | 少ない | 早い | 早い |
ひび割れ | しにくい | しやすい | しやすい |
価格 | 低価格 | 中価格 | 高価格 |
用途 | 荒砥石 中砥石 | 中砥石 仕上げ砥石 | 荒砥石 中砥石 仕上げ砥石 |
【各製法の研ぎ感】
ビトリファイド | レジノイド | マグネシア |
---|---|---|
研磨力強い 研ぎ汁多い 研ぎやすい 切れ味△ | 軟らかい 疲れにくい 光沢が出やすい 蛤刃にしやすい | 硬い ベタ研ぎに向く 変質しやすい |
【天然砥石】異次元の研ぎ心地で希少な砥石
【天然砥石とは?】
特徴 | 天然の山から採掘した砥石 数cmの違いで品質が変わる 個体差が激しく同じモノはない |
---|---|
長所 | 包丁の性能を最大限に引き出す 美しい見た目仕上がる |
短所 | 当たり外れがある 使いこなすには技術が必要 高価 |
天然砥石は、山の地層から採掘される砥石で、
山によって大まかな種類(荒砥、中砥、仕上げ砥)が決まります。
仕上げ砥石は合砥(あわせど)といわれ、世界で唯一、京都でのみ産出されています。
砥石の判は採掘された穴や事業者ごとに名前が押されます。
天然砥石は、需要も供給も減少しており、市場に流通するものは中古品も多くあります。
それでもやはり、天然砥石には人造砥石にはない魅力があります。
- キメ細かい仕上がり
- より鋭い切れ味
- 鈍く独特の「曇り」の輝き
- 返りが出にくい
何より、相性の良い天然砥石との出会いはトキメキがあります。
良い砥石とは?自分に合った砥石の選び方
【人造砥石の選び方のポイント】
数多くの砥石から自分に合うものを選ぶには、目的に応じて選ぶことが必要です。
- 番手
- 製法
- 使い心地
まずは、番手。
荒砥:#100~#400程度
→刃こぼれや形の修正
中砥:#1000~#2000
→日常的な刃付け
仕上げ砥:#3000~#30000
→刺身包丁の仕上げ
基本は中砥石。しかし、プロなら荒砥石、仕上げ砥も揃えておきたいです。
次に、好み。
水に浸ける必要があるか、ないか。
砥糞は多く出る方がいいか。
硬めがいいか、軟らかめか。
思い付いた時に浸水の必要なく、研ぎ始められるのはレジノイド・マグネシアの良いところ。
最後に、使い心地。
最終的には自分自身の使い心地が大切です。
数ある砥石から、自分に合う砥石を見つけて下さい。
結局は、研ぎ手のストレスにならない砥石。研ぐことが楽しくなる砥石が最高です。
砥石の保管方法とメンテナンス
砥石は使用後、メンテナンスを行い、適切に保管しましょう。
【砥石のメンテナンス】
面直し(つらなおし)
使用後の砥石は目で見てわからなくても、必ず凹み歪みます。水平を保つには面直しが必要です。
面取り(めんとり)
面直し後の砥石の四辺は直角で危険です。刃こぼれや、ケガの原因となるので角を削り、面取りします。
【砥石の保管】
保管方法は以下の点に注意してください。
- 流水で砥糞をキレイに洗い流す。
- 自然乾燥させる
- ケースにしまう(ケースがない場合は新聞紙で包む)
- 直射日光に当てない
【砥石の種類】まとめ|自分の好みを知り相性の良い砥石を使う
板前にとっての相棒は包丁であり、
包丁にとっての相棒は砥石です。
その砥石は包丁よりも長い歴史があり、奥深いものです。
たくさんある砥石のそれぞれの特徴を、
正確に言葉で言い表すことが難しく、
自分自身で研ぐことで得られる感覚が大切です。
多くの板前は、個人で包丁や砥石を揃えているため、時には先輩や後輩から借りて実際に研いでみることをオススメします。
砥石の種類を確認した上で、
それぞれの使い心地を知り、
楽しく包丁を研げることは板前にとっての財産です。
包丁の切れ味は、料理の仕上がりにも影響するため、包丁本来の性能を引き出すことが研ぐことの真価です。