新人 けんたパプリカ先輩、今日の仕込みにスッポンが届いてます……。生きてるし、噛みつきそうだし、正直どこから包丁を入れればいいのか分かりません。



スッポンは魚とはまったく違う生き物だからな。甲羅・お腹の骨・足・首と、体のつくりを知っていれば、包丁を入れる場所は自然と決まってくるんだ。



噛まれたら離さないって本当ですか?



本当だよ。だから一番大事なのは首を落とすまで、そして落としたあとも、頭に指を近づけないこと。今日は首の落とし方から、湯むき、スープの取り方まで全部見せよう。
スッポンは、日本料理のなかでも「扱える店が限られる」特別な食材です。濃厚なのに澄んだスープ、ぷるんとしたゼラチン質、鶏肉にも似た上品な身。一匹から余すところなく料理が生まれます。
ただし、さばき方を知らないと、噛まれるケガや、内蔵を傷つけて臭みが移る失敗につながります。必要なのは力ではなく、骨と関節の位置を知ることです。
- 一晩、水で泳がせて泥を吐かせる
- 裏返して首を伸ばさせ、首の付け根から落とす
- 甲羅に一周包丁を入れて外す
- お腹の骨を外し、内蔵と膀胱を取り除く
- 足を四つに切り分け、黄色い脂を除く
- 70℃ほどの湯で薄皮をむき、水にさらす
本記事では、板前が仕込みの現場で実際に行っているスッポンのさばき方を、約1kgのスッポン1匹をおろした写真58枚で、一工程ずつ解説します。おろしたあとの湯むき、スープの取り方、身のほぐし方、真薯(しんじょ)の吸い物までまとめました。
スッポンとは?【すっぽん・鼈】


スッポンは、カメの仲間(スッポン科)の淡水性の爬虫類です。日本で昔から食べられてきたのは、在来のニホンスッポン。暖かい地域の川や池にすみ、甲羅が硬い板ではなく、皮膚におおわれた柔らかい甲羅になっているのが、ほかのカメとの大きな違いです。
首がとても長く伸び、おくびょうな性格で、驚くと噛みついて離れません。冬(11月〜3月ごろ)は池の泥の中で冬眠し、身を蓄えます。
料理として流通するスッポンの多くは養殖です。食用に出荷されるのは、3〜4年育てて600g〜1kgほどになったもの。今回おろしたのは約1kgの一匹です。
ちょっと話したくなる“スッポンのウンチク”
- 日本の養殖は浜名湖から始まった
明治時代、服部倉次郎さんが浜名湖で日本初のスッポン養殖を始めたとされます(浜松市の紹介ページより)。暖かい気候と、池を作りやすい土地、東京と大阪の中間という立地が決め手でした。今も浜松はスッポンの産地として知られています。 - 京都では「まる」
京都ではスッポン鍋を「まる鍋(丸鍋)」と呼び、江戸時代から続くスッポン料理の老舗もあります。 - 「月とスッポン」
どちらも丸い形なのに、その価値は比べものにならないほど違う、というたとえ。けれど料理人にとっては、スッポンも月に負けない極上の食材です。 - 捨てるところが少ない
身・えんぺら(甲羅の縁の柔らかい部分)・足・首、骨からはスープ。内蔵と膀胱、尾などを除けば、ほとんどを料理に使えます。
スッポンをさばく前に知っておきたい注意点
- 首を落としても噛む:頭は落としたあとも、しばらく口を動かします。アゴを外すまでは、口元に指を近づけないこと。
- 前日に泥を吐かせる:届いたその日にさばかず、一晩水で泳がせて泥を吐かせると、臭みが残りにくくなります。
- 膀胱を破らない:膀胱はなかなか臭うので、破らないように取り除きます。
- 出刃包丁と手袋:骨を断つ場面があるので出刃包丁を使います。血や脂で滑るので、手袋をすると安全です。
- 生き血は無理に飲まない:スッポンの生き血を酒で割って飲む文化もありますが、生のまま口にするのは衛生面の心配があります。おいらが以前保健所に問い合わせたときも、すすめられないと言われました。
これらを頭に入れたうえで、さばいていきましょう。
スッポンのさばき方【写真58枚で解説】
ここからは、実際の写真をもとに解説します。スッポンのさばき方は、おおまかに次の6ステップです。
- 泥を吐かせる
- 首を落とし、頭を処理する
- 甲羅を外す
- お腹の骨を外し、内蔵を取る
- 後ろ足を切り分ける
- 前足(首側)を切り分ける
泥を吐かせる(前日)


届いたスッポンは、すぐにさばかず、たっぷりの水に入れて一晩泳がせます。


次の日には、スッポンが泥を吐いて水が濁っています。この一手間で、身やスープに泥臭さが残りにくくなります。
首を落とす


まな板の上でスッポンを裏返して置きます。お腹を上にすると、起き上がろうとして首を伸ばしてきます。そこを狙います。


伸びた首をしっかり掴み、首の付け根に包丁を入れます。掴む手が噛まれないよう、頭ではなく首の根元側を持つのがコツです。


首の骨を断ち切り、首を落とします。骨の継ぎ目(関節)に刃が入ると、力をかけずに切れます。


生き血を使う場合は、ここで器に受けて確保します。先にも書いたとおり、生き血を生のまま飲むのはおすすめしません。
頭を処理する(アゴを外す・食道を外す)


落とした頭は、まだ噛みます。アゴを外すまでは、口の前に指を出さないでください。


下アゴの付け根に、V字に包丁を入れます。


横から見たところです。Vの包丁目から、アゴの骨を起こしていきます。


首(下アゴ側)と頭に分かれました。


首に残っている骨を切り落とします。


首から食道を外します。


これが食道です。食道は使わないので取り除きます。
甲羅を外す


ここから本体です。写真の白い線が、包丁を入れる場所。甲羅の縁の内側に沿って包丁を入れ、甲羅を外していきます。


甲羅の縁に沿って、一周ぐるりと包丁を入れます。


甲羅を下にしてめくりながら、甲羅に沿って内側へ切り進めます。


真ん中まで到達したら、向きを変えて反対側から同じように切り進めます。


外した甲羅です。縁の柔らかい部分(えんぺら)はゼラチン質のかたまりで、スッポンの醍醐味のひとつ。捨てずにスープに入れます。
お腹の骨を外し、内蔵を取る


甲羅側を上にし、尾側を手前に置きます。お腹側には平たい骨(お腹の骨)があり、この骨をまな板に付けるようにして置くのがポイントです。


骨が浮かないように押さえながら、包丁を入れます。


尾の付け根と、前の工程でまな板に付けていたお腹の骨の間。ここを切り離します。


反対側も同じように切り離します。次の写真は、こちら(尾側)の身です。


身から内蔵を外します。


内蔵は使わずに破棄します。


膀胱も取り除きます。膀胱はわりと臭うので、破らないよう注意してください。
後ろ足を切り分ける


裏返して、左右に切り分けます。尾は硬くて切れないので、左右どちらかに避けて包丁を入れます。


左右に切り離しました。


尾も切り離します。尾は使わずに破棄します。


足先(手の部分)を切り分けます。


関節にうまく刃が入ると、驚くほど簡単に切れます。硬いと感じたら、無理に力を入れず、関節の位置を探り直しましょう。


身に付いている黄色い脂を取り除きます。この脂は臭みのもとになるので、きれいに除きます。
前足(首側)を切り分ける


首側(前足)もほどいていきます。写真の丸の部分が、首があった場所です。


お腹側の中央には、扇型に骨があります。この骨を避けて、両脇に包丁を入れます。


反対側に返して、包丁を入れた部分からめくります。


左手は上にめくりながら、包丁は下に押し付けながら切り進めます。骨に身を残さないように意識しましょう。


写真の線のところで、出刃包丁で叩き切ります。


反対側も同じようにします。
おろし終わり


すべておろし終わりました。
- 甲羅
- お腹の骨
- 頭・首
- 左前足・右前足
- 左後足・右後足
- 内蔵(破棄)
ここまでで、さばく工程は完了です。
湯むき|薄皮をむいて臭みを取る
おろした身には、表面に薄皮があります。この薄皮が臭みのもとなので、湯むきしてきれいにむきます。


70℃ほどの湯に、10〜20秒ほど漬けます。一度にたくさん入れると湯の温度が下がるので、少量ずつ。熱すぎる湯だと身に火が入りすぎるので、沸騰した湯は使いません。


湯から引き上げ、指でこすると、薄皮がつるりと剥けます。


皮が剥けた部分と、剥けていない部分です。境目がはっきり分かるので、剥き残しがないように確かめます。


皮を剥き終えたら、しばらく流水にさらします。
スッポンのスープの取り方
骨ごと炊いて、スッポンのスープを取ります。


鍋に移し、水・酒・昆布だけで火にかけます。
- スッポン 1杯(約1kg)
- 水 8合(1440ml)
- 酒 4合(720ml)
- 昆布 30g


火加減は強火でOKです。


温度が上がってくると、スープが濁り、アクが浮いてきます。


沸くまでは、アクを引かなくて構いません。


沸くと一気にアクが出てきます。ここでしっかりアクを引きます。


最初のアクだけで、こんなにたくさん出ます。


沸騰を保てる火加減で、30分ほど炊きます。ときどき様子を見て、アクを引きます。


水分が蒸発してアルコールが飛び、2割ほど煮詰まるまで炊きます。


だいぶスープが透き通りました。



先輩、あんなに濁っていたスープが、きれいに澄みましたね!ここから味を付けるんですか?



ふつうはこの段階で味を付けて、「丸吸い(すっぽんのお吸い物)」や「丸鍋」に仕上げていくことが多いな。



うちの店は違うんですか?



以前、お客様から「スッポンは気持ち悪い」というご意見をいただいたことがあってな。だからうちの店では真薯に仕上げて、見た目がグロテスクにならないように配慮しているんだ。



同じスッポンでも、お客様に合わせて仕立てを変えるんですね。


身はザルに引き上げます。


スープは漉して冷まします。黄金色に澄んだスープは、雑炊や吸い物、鍋の地に使えます。
身をほぐす|骨を除いて使いやすく


身から骨を除き、ほぐします。スッポンはゼラチン質が多く、冷めると固まるので、温かいうちにほぐすのがコツ。指先に湯を付けながらやると、身が手にくっつかず作業しやすくなります。


ほぐし終わりました。骨・ゼラチン質・筋肉(身)に分けています。骨が残っていないか、丁寧に確認しましょう。


身とゼラチン質を、包丁で叩いて細かくします。


すり身と合わせて流し缶に流し、蒸し上げます。
盛付け例|すっぽん真薯の吸い物


蒸し上げた真薯を、取ったスッポンのスープで吸い物に仕立てました。紅葉に抜いた人参を添えて、秋の椀に。身もスープも、一匹のスッポンから生まれた一品です。
スッポンのさばき方でよくある質問
まとめ|スッポンは骨と関節を知ればさばける



パプリカ先輩!最初は怖かったですけど、どこに包丁を入れるのか分かったら、思ったより順番どおりなんですね。



そうだろう。スッポンは甲羅を外して、お腹の骨を外して、足を四つに分ける。この順番さえ頭に入っていれば迷わないさ。



はい!
①首を落としても頭に指を近づけない
②膀胱を破らない
③関節に刃を入れる
この3つを意識してやってみます。



うんうん。湯むきとアク引きを丁寧にやれば、スープも澄んだ極上のものになる。一匹さばけば、次はもっと手が覚えているはずだ。
本記事では、板前が現場で行っているスッポンのさばき方を、泥抜きから湯むき、スープの取り方、真薯の吸い物まで、写真付きで解説しました。
スッポンは扱いに気をつかう食材ですが、体のつくりを知り、一工程ずつ丁寧に進めれば、誰でもきれいにさばけます。
身もえんぺらもスープも、一匹から料理が広がるのがスッポンの魅力。ぜひ、自分の手でさばいてみてください。


パプリカ先輩
板前一筋23年
東京都ふぐ免許保有
料亭、ミシュラン店、会員制クラブ勤務








